研究概要 |
本研究では、脳内覚醒維持機構について,オレキシンーヒスタミン(HA)調節系をモデルとして検証した.脳波、筋電図用電極および第三脳室内連続注入用カニューレを慢性的に装着した雄ラットを用いた。本研究の発端となったイヌ・ナルコレプシーでは,皮質や視床においてHA含有量が減少しており,イヌ・ナルコレプシーの原因遺伝子がOX_2Rであることや,正常ラットではHA神経の起始核であるTMでほとんどがOX_2Rを発現していることから,オレキシンの作用機構としてHA調節機構の関与が示唆された.ラット視床下部におけるHAの遊離量は明期に低下し活動期の暗期で上昇するが,HAの合成酵素阻害剤のα-fluoromethylhystidine(FMH)のラット腹腔内投与では睡眠誘発効果がある.そこで,前もってα-FMH (100mg/kg)を暗期の04:00にラット腹腔内に投与しておき,その後オレキシンB(10nmol/50μl)を明期にかけて5時間(ll:00-16:00)ラット第三脳室内に連続注入すると,オレキシンBによって引き起こされる覚醒作用が抑制された.オレキシンのみ投与では対象と比較して覚醒時間は99.4%の増加を示すが,α-FMH存在下ではオレキシンによる覚醒時間の増加は53.2%にとどまり,α-FMHによりHA合成が特異的に阻害されたためHA調節系を介するオレキシンの覚醒作用が減弱されたものと解釈できる.オレキシンの覚醒作用の背景にあるノンレム睡眠の抑制作用はα-FMHの前処置により減弱されるが,レム睡眠はα-FMH存在下であってもほとんど影響を受けないことから,HA系はほとんどレム睡眠そのものの調節には関与していないことが示唆される.したがって,これらの新しい知見はオレキシンの覚醒作用発現にH4が強く関与することを示唆している.本研究において,脳内覚醒維持機構の一つとしてオレキシン-ヒスタミン調節系が重要な機能を有していることを明らかにした.
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