研究概要 |
Diffuse neurofibrillary tanges with calcification (DNTC)は、臨床症候および神経病理学的所見において、Alzheimer病(AD)、Pick病双方に一部類似しながらも、さらに生理的範囲を超えた石灰沈着が生じる。本研究では、分析電顕(JSM-T220にJEOL JED-2001装備)と放射光蛍光X線分析法(SRXRF)(KEK BL4A)を用いてDNTCの死後脳(前頭葉、側頭葉、後頭葉の各皮質)を分析し、脳内カルシウム沈着と金属元素との関連について検討した。対照にはADと統合失調症の死後脳を用いた。測定の条件をEPMA-EDXの加速電圧20kV、測定時間100秒、SRXRF spectroscopyの入射X線エネルギー14.9keV,ビーム径6μmと設定した。分析試料には20%リン酸緩衝ホルマリン固定のパラフィン切片および-80℃凍結保存脳から作製した4%パラフォルムアルデヒド固定凍結切片を用いた。SRXRF分析ではDNTCの前頭葉と測頭葉の血管周囲に高濃度の鉛、水銀、亜鉛、カルシウムが検出された。前頭葉のパラフィン切片のマッピング画像を分析後に染色したHE切片と照合し、血管壁にカルシウムと鉛が一致して分布していることがわかった。対照脳からは高濃度の鉛は検出されなかった。以上の結果からDNTCの石灰沈着は主として鉛の蓄積により増強されるものと思われた。鉛は古くから中枢神経系において毒性を発揮することが推測されており、そのメカニズムとしてミトコンドリアの機能障害や他の2価のイオンのタンパク質に対する結合妨害、細胞膜の破壊酵素活性の阻害、血管壁の透過性増強などが考えられている。脳内へ高濃度の鉛が取り込まれることによって石灰化が促進される可能性があるため、DNTCの脳内に鉛が蓄積することでDNTCの病態が促進されるかもしれない。
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