平成11年9月、診断から、精神療法、ホルモン療法、手術療法へと進む包括的治療を「性同一性障害に対する包括的治療の臨床的研究」として岡山大学医学部倫理委員会に申請を行い、平成12年3月、承認された。現在、泌尿器科、産婦人科、形成外科とも連携しながら、精神療法、ホルモン療法、手術療法を行っている。 平成16年3月末までに、岡山大学医学部・歯学部附属病院精神神経科を性別の違和感を主訴に450人の患者が受診しており、そのうち性同一性障害患者と考えられる症例は428例である。現在、倫理委員会から101例のホルモン療法の承認を得ており、そのうち100例でホルモン療法を開始している。また、35例の手術療法の承認を得て、そのうち19例に性別適合手術(MTF2例、FTM17例)を、14例に乳房切除術を行っている。さらに、治療経過と予後及び問題点から、ガイドラインの改定に寄与した。 精神神経科に於いては精神療法を行っているが、知能検査、自我態度スケール、ラザルス式ストレスコーピングイベントリ、バウムテストの心理検査を施行している。さらに、知能検査(WAIS-R)を施行した87名の結果を男性例、女性例ごとに教育歴を分けて検討した。その結果、教育歴13年以上の群の男性例で言語性IQが有意に高かった。言語性IQ、動作性IQの各下位項目においては、教育歴12年以下の群において「知識」で男性例が、「符号」で女性例が有意に高く、教育歴13年以上の群において「理解」で男性例が有意に高かった。これらの結果は身体的な性の特徴に一致していた。 性同一性障害の1組の双子一致例(一卵性)、3組の不一致例、5組の同胞一致例を報告した。家族内での性同一性障害の発生率は一般人口の中の性同一性障害の発生率から推測される率より高く、性同一性障害の発症要因に遺伝的要因、養育状況や、家族構成などの環境要因が関与することが推測される。
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