研究概要 |
ストレス性精神障害の病態形成に関連するストレス性のアポトーシスを含む細胞変性の機序に、c-Jun N-terminal kinase (JNK)/c-Jun情報系がどのように関与しているかを明らかにする目的から、本年度は以下の研究を行った。 1)急性拘束ストレスによるラット脳内JNKs発現およびJNKリン酸化への影響 急性拘束ストレス(30,60,120分)負荷による大脳皮質前頭部(FC)・海馬(HP)のJNK1,2,3mRNA発現の変化をreal-time PCR法にて計測した結果、特に有意な変化はみられなかった。同じく、JNK1,2,3の蛋白レベルをwestern blot法で計測したが、有意な変化はみられなかった。Phospho-JNKの発現をwestern blot法にて検討したところ、有意な発現低下がFCでみられた。免疫組織法による解析を行ったところ、大脳皮質前頭部の第II-V層での陽性細胞数の減少がみられた。 2)母子分離ストレス負荷のおよぼす成熟期ラット脳内JNKsおよびphospho-JNK発現への影響 慢性母子分離を受けて育ったラットの成熟期に120分の急性拘束ストレスを負荷後、FC, HPでのJNKs, phospho-JNKの発現を検討した。その結果、母子分離によっては脳内JNK1,2,3mRNA発現および蛋白発現に有意な変化はみられなかった。しかしながら母子分離+拘束ストレス負荷では、HP・FCにて正常飼育・正常飼育+拘束・母子分離の各群と比較して、有意な発現の低下がみられた。Phospho-JNKの発現でも同様に、母子分離+拘束ストレス群で発現の減少がみられた。免疫組織法による解析を行ったところ、海馬のCA3領域を中心に錐体細胞層に一致したJNK2陽性細胞の発現減少がみられた。 本年度の成果は、急性ストレスによってJNK情報系の機能が減弱する可能性を示しており、特にストレスに脆弱な母子分離ラットではこれが顕著であることも明らかになった。このような結果はストレスがJNKsによってリン酸化される基質の機能低下を引き起こす可能性があるため、今後はJNKsの基質であるc-JunやATF-2のリン酸化を解析すべきと思われる。
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