研究概要 |
先に確立した、アルコール精神依存モデル実験動物において、以下の実験を行い、アルコール依存症の発症メカニズムの解明につながる重要なデーターを得た。 ■海馬の神経伝達物質・ペプチド・アミノ酸濃度の解析 アルコール依存症モデル動物の海馬に焦点を当て、生化学的手法(ニンヒドリン法)で海馬の神経伝達物質、とくにアミノ酸の解析を行った。アミノ酸のうちGABA,Glu,Gly,Ala,His等が、対照動物に比べて優位に減少していた。学習能力に深く関与する海馬におけるこれらの物質レベルの変動は、アルコール精神依存における、依存形成機序の一因であることを示唆する。 ■電子顕微鏡による海馬の微細構造変化の解析 アルコール依存症モデル動物の、海馬神経細胞の微細構造を電子顕微鏡で観察した。アルコール曝露により、CA1領域の錐体細胞は、高電子密度の細胞質と、変形した細胞膜を有していた。CA2あるいはCA3領域の錐体細胞には、明らかな変化を認めなかった。更に、これらの細胞の細胞内小器官のうち、ゴルジ装置の膨化様変化を呈する像を観察した。このことは、細胞濃縮・パッキングといったゴルジ装置の機能破綻が、アルコールによる神経細胞障害の一因であることを示唆している。 ■海馬の神経細胞総数の組織定量解析 アルコール曝露モデル動物の、海馬領域神経細胞の総数をPhysical Disectorで解析した。アルコール曝露により、海馬アンモン角領域の錐体細胞の総数は減少した。しかしながら、歯状回顆粒細胞や、歯状回門領域の神経細胞の総数には変化を認めなかった。このことは、錐体細胞は、他の神経細胞に比較して、アルコールに対してより脆弱であることを意味する。
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