研究概要 |
[1]アミノ酸の解析:アルコール依存症実験動物モデルを作製し、主として海馬と中脳被蓋領域を含む脳幹の動態変化の解析を行った結果、タウリン濃度の有意な上昇を認めた。これはアルコールによる脳障害に対する防御反応と言える。他にはGABA,Glu,Gly,Ala,His等が減少していた。 [2]脳発達時期アルコール曝露の辺縁系への影響:アルコール曝露動物では海馬歯状回門において、16日齢で体積と神経細胞の減少を認めたが、30日齢までにはこの減少を認めなかった。錐体細胞はいずれの日齢においても有意に減少していた。一方、前頭前野の細胞ではいずれの時期においても神経細胞変性による細胞減少が認められた。この結果はアルコールが海馬神経細胞ネットワークに影響を与えアルコール依存症成立に関与していることを意味する。 [3]脳発達時期アルコール曝露と神経細胞の変化:アルコール曝露動物では、さらに海馬歯状回顆粒細胞は、16日齢と30日齢においても神経細胞数の変化を認めなかった。ラット顆粒細胞はアルコールに対して、顆粒細胞の脆弱度が錐体細胞のものよりも小さい。 [4]電子顕微鏡による微細構造変化の解析:CA1領域の錐体細胞は、高電子密度の細胞質と、変形した細胞膜を有していた。CA2あるいはCA3領域の錐体細胞および中脳被害領域には明らかな変化を認めなかった。細胞内小器官ではゴルジ装置の膨化様変化が特徴的であった。 [5]BDNF, GDNFおよびOMgpの解析:RT-PCRによる定量の結果、エタノール投与群のBDNFおよびGDNFmRNA発現量は、対照群に比べ有意差を認めなかったが、OMgp mRNA発現量は有意に減少していた。OMgp mRNA発現の減少は、ヒトアルコール依存症患者で見られる髄質の萎縮性変化と一致するものである。これらの変化はアルコール依存症患者が呈する中枢神経症状に関与するものと考察できる。
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