研究概要 |
今年度は中山町にける疫学調査において、痴呆性疾患の呈するうつ状態について検討した。地域在住の高齢者を対象とした痴呆の精神症状の検討はたいへん少ないが、国際的な診断基準を用いた多数例での検討はLyketososら(2000)のものがある。彼らは、国際的な精神症状の評価尺度であるNPIを用いてアルツハイマー病(AD)と脳血管性痴呆(VaD)の精神症状を検討しており、何らかの精神症状は全痴呆例の56.2%、ADの53.3%、VaDの59.7%に認めている。そして、ADにおいて妄想を、VDにおいて抑うつ(32.3%)を有意に多く認めている。われわれの中山町高齢者健康調査では、Lyketososらと同様にNPIを使用し、何らかの精神症状を全痴呆例の88.3%、ADの90.5%、VaDの92.9%に認めた(Ikeda et al.,JNNP,2004)。本研究では、ADで妄想、異常行動が有意に高頻度に認められた。精神症状の内容については、いずれの研究においても無為・無関心がもっとも高頻度に認められるなど類似の傾向を示しているものの、われわれの中山町研究では全般的に精神症状の頻度が高い。一方、VDの抑うつに関しては21.4%と、Lyketososらの研究と比べて頻度が低い。これらの違いは、LyketososらがNPIを対象住民に直接実施しているのに対し、われわれは原法に忠実に主たる介護者に実施したことなど、方法の違いによると考えられる。すなわち、われわれの検討では、NPIを介護者に実施し、老年精神医学の専門医が直接本人を診察することにより、厳密に抑うつと自発性の低下を区別したためと思われる。
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