研究概要 |
有機溶剤の吸入により生じる精神症状や精神依存がドーパミンやセロトニンといった脳内モノアミンニューロンの神経伝達や神経可塑性と深く関わっていることから、前シナプスでシナプス小胞の開口放出において細胞膜との融合孔形成に関与する分子の一つであるsynaptophysinに着目し、免疫組織学的手法を用いて生体内中枢神経系における有機溶剤依存のメカニズムを検索した。 実験動物は生後50日齢のWistar系雄性ラットを用いた。トルエン曝露は以下の方法で行った。動物を透明なプラスティック容器(60×40×35cm)内にトルエン(2ml,2000ppm)を吸収させたろ紙の入ったシャーレを置き、その中に飼育ケージごと動物を、3時間ずつ吸入曝露させた。対照動物も同様の処置をトルエンの入っていない別の容器を用いて同時に行った。また、容器内のトルエン濃度・酸素濃度も同一条件にした。 抗synaptophysin抗体を用いた免疫組織化学法による実験を行った。 4%パラホルムアルデヒドで灌流固定後脳を摘出し、ショ糖に48時間浸けたのち凍結しクリオスタットにて切片を作成した。synaptophysinに対する特異抗体(1次抗体)を各々室温で4日から7日間反応させたのち、型通りのABC法をおこない光学顕微鏡を用いて観察した。 有機溶剤単回吸引による急性曝露群は対照群に比して、synaptophysin免疫陽性細胞の増加傾向が認められた。有機溶剤単回吸引による急性曝露群におけるsynaptophysin免疫陽性細胞は、主にnucleus accumbens、prefrontal cortexとtemporal cortexにおいて増強する傾向がみられた。 次年度は、例数を増やし、長期間(2-4週間)吸入による慢性曝露群との比較をおこない、有機溶剤依存のメカニズムを明らかにしていきたい。
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