研究概要 |
本研究は精神分裂病の長期予後に大きな影響をもたらす病識を改善するための治療プログラムの効研究である。治療プログラムは、近年発展の著しい認知行動療法の技術を用いるが、同時に認知機能改善に効果があると考えられる非定型抗精神病薬投薬の影響についても検討する。今年度は少数例によるパイロットスタディを行い、介入技術および評価方法の検討を行った。 対象:以下の基準を満たすもの9名。 1,帝京大学医学部付属病院デイケア通院中で、本研究の調査について文書による同意を得たもの。2,ICD10で統合失調症の診断基準を満たすもの。3,精神症状が安定しており、デイケアで実施された認知行動療法(周1回、方法:回約1時間、合計22回)に70%以上参加したもの。平均年齢27.7±7.5、男性6名、女性3名、平均罹病年数6.8±4.9、これまでの平均入院回数1.6±2.5 方法: 1,認知行動療法開始時の抗精神病薬の処方内容を調査したところ、9名のハロペリドール換算1日服薬量は、平均15.8±8.0mgであった。 2,開始時の処方内容から、等価換算表でハロペリドールに換算した際に、最も服薬量の多い薬物を主剤とし、主剤が何であるかによって従来型抗精神病薬群(4名)と非定型抗精神病薬群(5名)に分類した。両群の間に1日平均服薬量に統計的な有意差は認めなかった。AIMSも両群に有意差を認めなかった。 3,認知行動療法実施中の22週間の処方内容で主剤が変更になったものは認めなかった。 4,認知行動療法開始時、終了時の2時点で、改訂版ロールプレイテスト、精神症状評価(BPRS, UCLA version Brief Psychiatric Rating Scale)、精神障害者社会生活評価尺度の対人能力下位尺度(LASMI-I)、概括的機能評価尺度(GAS, Global Assessment Scale)、神経心理学的テスト(数字の順唱および逆唱、トレイルメーキングテストA, B、言語流暢性テスト、創造性思考検査)、日本版病識評価尺度(SAI-J, the Schedule for Assessment of Insight)、陽性陰性症状評価尺度の病識評価項目(PANSS-G12、Positive and Negative Syndrome Scale)、異常不随意運動評価尺度(AIMS)による評価を行った。 結果: 1,認知行動療法終了後、対応のあるt検定で、ロールプレイテストの総合的スキル得点、BPRSの陰性症状・気分症状・解体症状,GAS、トレイルメーキングテストA、単語流暢性テスト、PANSS-G12が有意に改善していた。 2,両群の間で、認知行動療法開始時点での年齢、罹病年数、通算教育手数、通算入院回数および月数、BPRS(思考の歪曲、陰性症状、解体症状)、GAS、LASMI-I、神経心理学諸テスト、SAI、PANSS-G12のいずれも有意差を認めなかった。BPRS(気分症状)のみ、ウィルコクソン検定により、非定型抗精神病薬群の方が重症度が高い傾向を認めた(p=O.079)。 3,ウィルコクソン検定を用いて、両群の改善度の比較を行った。 ・ロールブレイテストの「対処法の修正」が、非定型抗精神病薬群で有意に改善度が高かった。 ・BPRS陰性病状が、従来型抗精神病薬群で有意に改善度が高かった。
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