研究概要 |
本研究は統合失調法の長期予後に大きな影響をもたらす病識を改善するための治療プログラムの効果研究である。治療プログラムは、近年発展の著しい認知行動療法の技術を用い、同時に認知機能改善が期待される非定型抗精神病薬の効果も検討する。 (1)パイロットスタディ 対象と方法:帝京大学医学部付属病院デイケア通院中で、ICD10で統合失調症の診断基準を満たすもの。認知行動療法(週1回、1回約1時間、合計22回)に70%以上参加したもの。治療開始時9名のハロペリドール換算1日服薬量は、平均15.8±8.0mg。 結果:1,認知行動療法終了後、ロールプレイテストの総合的スキル得点、BPRSの陰性症状・気分症状・解体症状,GAS、トレイルメーキングテストA、単語流暢性テスト、PANSS-G12が有意に改善していた。2、終了半年後の時点で、開始時と比較して、BPRSの陰性症状,GAS、PANSS-G12が有意に改善していた。3,従来型抗精神病薬群(4名)で終了後のBPRS陰性症状が、有意に改善していた。4,非定型抗精神病薬群(5名)では終了後のロールプレイテストの「対処法の修正」、半年後のBPRS気分症状、半年後のBPRS解体症状が、有意に改善していた。 (2)社会的な機能、病識、認知機能との関連性について 対象:ICD-10で統合失調症と診断されている36名。・平均年齢:29.6±7.6(17〜49)歳・罹病年数:6.4±4.2(1〜20)年 ・服薬量(HPD換算):12.1±68(4〜32)mg・通算入院回数:1.1±1.4(0〜8)回 方法:精神症状、病識、神経心理テスト、ロールプレイテストの成績の関連を解析した。 結果:・病識(服薬遵守)は、社会的状況の把握や社会的行動と有意な関連が見られた。・病識(精神障害の有無を認識できるか)は、気分症状と思考の流暢性が有意に相関しており、特に気分症状は重回帰分析でも有意な寄与を示した。・病識(精神症状を正確に認識できるか)は、精神症状も、社会的機能も、神経心理学テストの成績も相関しなかった。・社会的機能のうち行動計画の立案は、社会的な状況把握、注意の維持及び短期記銘力(数字の順唱及び逆唱)、遂行機能、及び解体症状が有意な相関を示し、そのうち注意の維持及び短期記銘力は重回帰でも有意な寄与を示した。・社会的な機能のうち社会的な行動は、社会的状況把握、行動の計画立案、陰性症状、解体症状、治療遵守性と有意な相関があり、そのうち行動の計画立案と陰性症状は重回帰分析でも有意な寄与をしめした。 (3)本格試行の概略 対象:ICD10により統合失調症と診断され、同意を得られたもの。認知行動プログラムに参加するものは、非定型抗精神病薬服薬群と従来型抗精神病薬服薬群とが同数になるように参加者を設定する。非定型抗精神病薬服用中の非介入コントロール群を設定する。 方法:パイロットスタディで行った病識改善のための認知行動療法プログラムを、1回1時間30分、週1回、合計20回実施し、その前後および半年後の効果評価を行う。 進行状況:本報告書作成の段階(平成16年2月)で、プログラムを18回まで実施。 平成16年5月までに終了後の評価を行う予定である。
|