研究概要 |
Takahashiらは統合失調症(精神分裂病)の日本人38家系,122人,58同胞対の探索眼球運動を指標としたゲノム・スキャンにより,染色体22q11.2のGCT10C10(LOD=2.48)と22q12.1のD22S429とD22S310(LOD=4.63)に連鎖を示唆する報告をした。その近傍に存在する遺伝子の解析は,統合失調症の病因解明の手がかりをもたらす可能性が考えられる。そこで,今年度は統合失調症の家系で22q11.2-q12.1の領域のbeta-adrenergic receptor kinase 2(ADRBK2)遺伝子とpeptidylprolyl isomerase(cyclophilin)-like 2(PPIL2)遺伝子を調べた。 1.統合失調症の家系におけるADRBK2遺伝子の変異検索と関連研究:染色体22q12に存在するADRBK2遺伝子は脳のドパミン神経経路に多く発現し,G蛋白結合受容体を介して神経伝達の調節に関与することが知られている。今回,48人(日本人16人,中国人32人)の統合失調症を発端者とする家系のADRBK2遺伝子の全21エクソンとイントロンにおける変異をPCRと直接シーケンス法により調べ伝達不平衡テスト(TDT)により解析した。その結果16個の変異(SNPs)を検出し,そのうち3個のSNPsはcoding領域であった。IVS9-72T>AのSNPはdbSNPのデータ・ベースで報告されていない新規のSNPであった。1家系でCys208Serの置換を伴うエクソン8の623C>Gのミスセンス変異を見出した。しかし,統合失調症と遺伝子多型との間に関連を示唆する結果は得られなかった。 2.統合失調症の家系におけるPPIL2遺伝子の変異検索と関連研究:染色体22q11.21に位置するPPIL2遺伝子は主に免疫抑制機構に関与するが,その座位から統合失調症との関連の可能性が考えられる。われわれは,上記と同じ48人を発端者とする家系の試料からPPIL2遺伝子の全20エクソンとエクソン・イントロン境界領域の変異を同様の方法で調べた。その結果8個のSNPsが同定されたが,どれもアミノ酸配列の変異を伴うものではなかった。現在,イントロン8とエクソン20の2個のSNPsを用いたハプロタイプの解析を行っている。
|