研究概要 |
未服薬の軽症アルツハイマー型痴呆(AL)患者17名(73.6±5.5歳)と対照健常高齢者17名(70.3±8.9歳)に、脳波空間解析手法である(1)Global Field Power(GFP)解析(FFTを用いて、頭皮上の19電極から得られた電位の標準偏差、すなわち脳電位空間全体の強度を求める)、(2)LORETA解析("smoothness"の理論に基づき、脳内の電位密度分布を推定)、(3)global解析(3つの指標値Omega(脳電位空間全体の複雑性)・Sigma(total power)・Phi(generalized frequency)を求める)、(4)Microstate解析(脳機能の情報処理過程を担う電気的最小単位microstateの構成を決定)を行い、(1)δ帯域(1.5-6.0Hz)におけるAL群のGFP値が対照群より大きく、塩酸ドネペジル治療後にAL群のGFP値はβ3帯域(21.5-30.0Hz)で増加し、(2)δ帯域での電流密度が対照群に比べ、AL群の右下側頭回周辺で高く、(3)AL群のOmega値(5.8±1.2)が対照群(4.9±1.3)より高く、Phi値と、MMSE得点・WAIS-Rによる全IQおよび動作性IQの間に正の相関があり、(4)求められたA,B,C,D4つのmapのうち、BとDで両群間の形状に差異を認め、対照群に比してAL群のmap占有率がAで増加、Cで減少し、4つのmapすべての平均持続時間が短縮することを見出した。 これらの結果より、AL患者に脳機能(特に記憶)の障害が存在し、塩酸ドネペジルがAL患者の神経細胞を賦活していること、AL患者では種々の脳機能発現過程間の協調性(円滑さ)が低下しており、脳電場変換速度の徐化が認知機能障害の程度と関連すること、AL患者の脳内情報処理過程が障害され、不安・緊張の高い状態にある可能性が示唆された。
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