研究概要 |
H9〜H13年度の5年間に都立松沢病院老年期痴呆病棟に入院したアルツハイマー型痴呆(ATD)患者(男:51名、女:137名)の家族より聴取した初発症状の調査の結果、記憶障害での初発は男女とも頻度に違いはなく男:64.7%,女:62.8%であった。幻覚・妄想は女性で13.1%を占めるのに対して、男性では2%のみであった。男性では行動の異常が第2位を占めるほか、抑うつ状態が女性よりも多い傾向が見られた。精神症状の発現には病前性格、身体状況、環境要因に負うところが大きく、mild cognitive impairementを考える上で記憶障害以外の精神症状にも目を向ける必要がある。 ATDの初発症状としての幻覚・妄想の頻度は上記の通りであるが、経過中には約50〜80%の症例に何らかの幻覚や妄想が認められ、ATDでは特に記憶障害を基礎にした「もの盗られ妄想」や認知障害に基づく人物誤認症候群の一つとされる「幻の同居人」が血管性痴呆などの他の痴呆症に比べて有意に多いことが知られている。その病理学的背景を探る目的で、神経原線維変化(NFT)の出現頻度を10例のATD脳の視覚系、聴覚系領域で検討したところ、いずれの症例においても、視覚系では外側膝状体→17野→18野→20野の順に、聴覚系では41野→42野の順にNFTの出現頻度が高くなっていた。即ち、ATDでは情報の統合の上位ほど冒されやすい。従って、ATDでは感覚情報を統合する上位連合野が冒されるために、情報が正しくインプットされたとしても記憶の解釈の誤りや情報の誤認が起こり、特有な妄想を起こすと考えられた。
|