研究概要 |
Mild Cognitive Impairment(MCI)に見られるアルツハイマー病理は,神経原線維変化の分布では主にBraak分類のステージI〜IIを示すことが多い.しかし,一部にはステージIII〜IVまで至っている症例も見られる.これは個人を取り巻く外的・内的環境要因の相違や,それぞれの代償能力の違いが,以前に考えられていた以上に知的状態に影響することを示している.一方,後部帯状回の代謝低下は初期のアルツハイマー病を診断するにあたり重要な所見とされている.したがって初期の脳機能低下と関連した変化である可能性があり,MCIにおいても注目される.本研究では,病理学的にアルツハイマー病と診断された症例について,Braak分類に従う各ステージ群ごとに,老人斑などの老年変化の観察および神経原線維変化の評価を,前部帯状回,後部帯状回,海馬傍回で実施した.その結果,後部帯状回において,脳血流・代謝の低下に対応する病理学的変化は,MCIや初期のアルツハイマー病では観察されなかった.MCI群ではほとんど神経原線維変化を認めず,初期アルツハイマー病群でも海馬〜側頭葉内側底部に比べて少数しか出現していなかった.これは後部帯状回で機能的な原因による代謝低下が器質的変化に先立って起こっていることを示唆している.MCIという状態はアルツハイマー病以外の痴呆を引き起こす疾患でも起こり得る.その中では,神経原線維変化型痴呆が注目される.神経原線維変化型痴呆では,明確な痴呆症状なしに長期間にわたって病的な記憶障害のみが続く.このような特徴はMCIそのものであり,MCIの状態に留まり長期にわたって痴呆化しない場合の病態として記憶に留めておく必要があろう.本疾患の脳機能画像の検討が待たれる.
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