研究概要 |
うつ・幻覚・妄想などの精神症状が先行し,アルツハイマー病様の認知症が後から加わる症例のかなりの割合が,剖検によりびまん性レヴィー小体病であることが見出される.びまん性レヴィー小体病の大部分の例では,アルツハイマー病に匹敵する老人斑アミロイド(Aβ)の沈着が大脳の広い範囲に出現し,海馬・辺縁系には神経原線維変化などのタウ蓄積が認められる.しかし大脳新皮質ではアルツハイマー病に比べてタウ蓄積が少ない.一方,アルツハイマー病例の相当数において,びまん性レヴィー小体病の診断基準は満たさないもののレヴィー小体が出現する.本研究では,129番目のセリンがリン酸化したαシヌクレインに対するポリクローナル抗体を作製し,免疫組織化学染色を用いて,神経突起への異常なαシヌクレイン蓄積を観察した.その結果,アルツハイマー病の半数近くに側頭葉新皮質におけるαシヌクレイン陽性神経突起を見出すとともに,びまん性レヴィー小体病の大脳皮質では,アルツハイマー病のタウ陽性ニューロピルスレッドに匹敵する大量の神経突起内αシヌクレイン蓄積を認めた.組織定量により神経突起への異常タウ蓄積と異常αシヌクレイン蓄積を合算すると,アルツハイマー病・びまん性レヴィー小体病にかかわりなく,Aβ沈着に見合う神経突起異常が生じていることが示された.最近,タウとαシヌクレインの凝集が初期段階では相互に促進し合うこと,いったん凝集が開始されるとどちらか片方の分子のみが凝集に関わること,が仮説として提唱されている.本研究の結果とあわせ,両疾患ではタウおよびαシヌクレインのリン酸化と異常蓄積という点で病態に連続性があること,Aβ沈着はどちらの異常蓄積も促進し,それがタウの凝集・蓄積に向かう傾向が強い症例はアルツハイマー病に,αシヌクレインの凝集・蓄積に向かう傾向が強い症例はびまん性レヴィー小体病になるのではないかと推測された.
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