研究概要 |
抗リン脂質抗体症候群(APS)の血栓形成機序として抗リン脂質抗体(aPL)による血管内皮細胞・単球における接着分子発現の亢進が関与しているとする報告がある。一方で、aPL陽性例でも血栓症発症を認めない症例など臨床症状に相違が見られることからaPL、特に抗プロトロンビン抗体(anti-PT)を抗原(prothrombin)との結合様式の相違により4種類のサブタイプに分類し、本年度(2002年度)は血管内皮細胞において接着分子の発現を高める抗リン脂質抗体のサブタイプの同定を試みた。 精製した4種類のanti-PTのうちphosphatidylserine(PS),Ca^<2+>存在下でhFIIとのみ結合するanti-PT#1は培養ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)におけるvascular celladhesion molecule-1(VCAM-1),intercellular adhesion molecule-1(ICAM-1),およびE-selectinの培養上清内への発現を有意に亢進した(P<0.001,<0.001,&<0.005)。Ps, Ca^<2+>非存在下でhFIIと結合するanti-PT#2はICAM-1の発現を有意に亢進した(P<0.05)ものの、VCAM-1,E-selectinの発現に対する影響は見られなかった。hFIIのみならずbFIIとも結合しうるanti-PT#3および#4による各種接着分子の発現亢進は見られなかった。 以上の結果よりanti-PT#1は血管内皮に作用して各種接着分子の発現を亢進させ、これにより血管内皮-白血球の接着をきたし血栓形成を惹起する可能性が示唆された。他のanti-PT、特にanti-PT#3,#4は血管内皮上の接着因子発現を誘導せず、このことは,これらのanti-PTが血栓症をほとんど発症しないという臨床所見と合致するものと考えられた。
|