本研究においては、変異FLT3を分子標的とした治療法の開発を最終目標として、変異FLT3分子によりもたらされるシグナル伝達機構の解析を中心とした分子的アプロ-ーチと変異FLT3発現細胞の増殖阻害あるいは分化誘導をもたらす化合物のスクリーニングを行う現象論的アプローチの両面からその基盤的研究を行い、本年度は下記の成果を得た。 FLT3遺伝子変異はAMLに高頻度に認められる予後不良因子であることと、変異FLT3分子が恒常的に活性化し、白血病細胞の増殖促進に関与していることより、FLT3キナーゼ阻害剤の開発は活性化している変異FLT3キナーゼを標的として進められてきた。しかし、最近MLL遺伝子の転座を伴うALL症例においてFLT3遺伝子の発現亢進が確認され、更に、FLT3遺伝子変異を伴わないALL細胞において強発現している正常FLT3分子は恒常的に活性化しているのみならず、FLT3キナーゼ阻害剤により変異FLT3分子と同等に活性阻害を受けることが示された。我々も、FLT3遺伝子変異を伴わないAMLにおいてFLT3遺伝子の高発現を示す症例が存在し、その正常FLT3分子は恒常的に活性化していると同時にFLT3阻害剤への感受性を示すことを確認した。また、FLT3遺伝子の高発現はFLT3遺伝子異常を伴わないAMLにおける予後不良因子である可能性を示唆する結果を得ている。したがって、FLT3阻害剤の適応疾患は必ずしもFLT3遺伝子変異を伴う症例に限られるものではなく、FLT3遺伝子の高発現例やFLT3分子の活性化を示す症例にも拡大可能であると考えられる。
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