研究概要 |
本研究においては、変異FLT3を分子標的とした治療法の開発を最終目標として、変異FLT3分子によりもたらされるシグナル伝達機構の解析を中心とした分子的アプローチと変異FLT3発現細胞の増殖阻害あるいは分化誘導をもたらす化合物のスクリーニングを行う現象論的アプローチの両面からその基盤的研究を行い下記の結果を得た。 1.FLT3の細胞内領域を細分化して発現ベクターに組み込みCos7細胞に発現し、各領域間の相互結合関係について解析したところ、JM領域とTK領域には、intramolecular associationの存在が示唆された。 2.ITD-JM領域と正常JM領域をbaitとして、ヒト骨髄細胞cDNAライブラリーをtwo-hybridシステムによりスクリーニングし、ITD-JM領域及び正常JM領域に特異的に結合する分子を同定した。 3.FLT3遺伝子変異を伴う急性骨髄性白血病における分化誘導療法開発への基礎的検討として、変異FLT3導入32D細胞におけるG-CSF依存性好中球分化機構の抑制機序を分化関連遺伝子の発現量を定量化することにより検討し、正常及び変異FLT3シグナルによる好中球分化抑制は、G-CSFによってもたらされるMPO、C/EBP-α、C/EBP-εの発現抑制にあるが、C/EBP-αの発現は正常のFL/FLT3刺激では抑制されず、完全な分化抑制が起こらない理由と考えられた。 4.FLT3遺伝子変異を伴わないAMLにおいてFLT3遺伝子の高発現を示す症例が存在し、その正常FLT3分子は恒常的に活性化していると同時にFLT3阻害剤への感受性を示すことを確認した。また、FLT3遺伝子の高発現はFLT3遺伝子異常を伴わないAMLにおける予後不良因子であることを証明した。したがって,FLT3阻害剤の適応疾患は必ずしもFLT3遺伝子変異を伴う症例に限られるものではなく、FLT3遺伝子の高発現例やFLT3分子の活性化を示す症例にも拡大可能であると考えられる。
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