研究概要 |
近年、種々の組織における幹細胞が、かなりの可塑性を持ち、他の系列の細胞へと分化しえることが明らかとなってきた。従来、造血に関与すると考えられてきた、骨髄中の(造血)幹細胞も、肝細胞、筋細胞、神経系細胞、上皮系細胞へと分化する可能性を持つことが示唆されている。この「他の系列の細胞へと分化しえる(造血)幹細胞」は、再生医学のみならず、遺伝子導入の標的細胞の有力な候補として遺伝子治療への応用が考えられている。 このことを確認するために、レトロウイルス・ベクター(FMEVタイプ)を用いて、骨髄中の(造血)幹細胞へのマーカー遺伝子導入を試み、以下の知見を得た。 1。骨髄中の(造血)幹細胞分画を、MGMT/P140K・luciferaseを発現するFMEVベクターに感染させて、遺伝子を導入することが出来た。 2。遺伝子導入後、マウスへの移植・アルキル化剤投与をすることで、遺伝子導入された細胞の濃縮をが可能であった。 3。末梢の造血細胞中のほぼ100%の細胞が遺伝子導入された細胞で置き変わったことが確認された。一方、移植後のマウスより肝臓を取出し、肝臓へ分化しえた細胞の頻度を検索した結果、極めて低い頻度であることが分かった(100,000-1,000,000細胞あたり数個の細胞)。このことから、マウスの骨髄中の造血幹細胞が、肝細胞へ分化する頻度は、極めて低いものであることが確認された。 以上のことから、間葉系幹細胞などの細胞などと比べ、骨髄中の(造血)幹細胞が肝細胞、筋細胞、神経系細胞、上皮系細胞などの他の系列の細胞への分化しえる頻度は、低いと推測された。
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