研究概要 |
造血器腫瘍細胞に発現しているHM1.24抗原はHM1.24抗体を用いた免疫療法の標的抗原として機能する。本研究では,腫瘍細胞におけるHM1.24抗原刺激を介する細胞死の機序を明らかにするとともに,そのシグナル伝達機構を解明し,HM1.24を標的とした免疫療法の有効性を高める方法について検討した。まず,HM1.24を高発現している骨髄腫細胞株RPMI8226細胞を用い,抗HM1.24抗体の細胞傷害活性について検討した。抗HM1.24抗体は単独では細胞傷害を誘導しなかったが,2次抗体の存在下でHM1.24抗原をクロスリンクした条件においては細胞の凝集化やAnnexin V陽性およびTUNEL陽性の細胞出現がみられ,HM1.24を介するシグナルによりアポトーシスが誘導される可能性が考えられた。さらに,この条件における細胞蛋白のリン酸化や活性化についてウェスタンブロツト法により検討したところ,カスパーゼの活性化やpoly(ADP-ribose)polymeraseの切断が認められ,HM1.24抗原を介した刺激がアポトーシスの経路を活性化させることが確認された。次に,骨髄腫細胞にアポトーシスを誘導する既存の各種抗がん剤との併用効果について細胞増殖試験による検討を加えた。骨髄腫細胞株はメルファランやエトポシドにより用量依存性に細胞増殖が抑制されたが,抗HM1.24抗体と2次抗体の存在下により細胞増殖はさらに抑制された。これらの結果から抗HM1.24抗体を用いた免疫療法は,腫瘍細胞のアポトーシスを誘導し,抗がん剤の抗腫瘍効果をさらに増強させるものと考えられた。今後はHM1.24抗原刺激によるアポトーシス関連蛋白の変化や遺伝子の発現変化を検討し,細胞死に深く関与している分子の同定を試みた上で,新たな分子標的治療の開発への応用をめざす。
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