研究概要 |
1.癌の発症あるいは病態に関連しているウイルスの代表にEpstein-Barrウイルス(EBV)がある。EBVは膿胸関連リシパ腫、バーキットリンパ腫、ホジキン病、鼻腔リンパ腫と密接な関係にあることが明らかにされた。膿胸関連リンパ腫(pyothorax-associated lymphoma:PAL)は本邦特有のリンパ腫とも言われ、EBVの感染が見られ、悪性度が高く予後は不良である。PALは慢性炎症を基盤に発症するユニークなリンパ腫である。このPALの症例報告およびPALの発症にAtaxia-telangiectasia mutated(ATM)遺伝子やATM and Rad3-related(ATR)遺伝子のmutationが関連している可能性を報告した(Int.Med.43:1210,2004;Lab.Invest.85:436,2005)。 2.本研究では血液造血器腫瘍をはじめとする発癌に関連しているヒトヘルペスウイルス8(HHV-8)の病原性について、造血器腫瘍以外でも検討した。原発性肺高血圧症(Pdmary pulmonary hypertension:PPH)の原因は明らかにされていないが、最近HHV-8が米国のPPH患者の肺組織から高率に検出されることが報告され、HHV-8がPPHの成因に関与している可能性が示唆された。そこで本邦におけるPPH患者の肺組織に本ウイルスの感染が認められるかを検討した。書面で本研究に同意を得られたPPH患者9人のパラフィン包埋肺組織よりDNAを抽出し、HHV-8特異的プライマーを増幅される配列が異なる部位2カ所(ORF26、ORF72遺伝子)に設定しPCRを行った。検索を行った9例のPPH患者の肺組織からHHV-8は検出されなかった(Res.Med.98:1231,2004)。我が国のPPHの発症あるいは病態にHHV-8の関与の可能性は少ないと考えられた。これは一般人口におけるHHV-8感染率の地理的な相違(我が国の感染率は米国より低い)などが影響していると推測される。今後、世界的な調査が必要であると考えられた。
|