腫瘍抗原である、receptor-binding cancer antigenon SiSo cells(RCAS1)は、種々の腫瘍細胞表面に発現しているタイプII膜蛋白である。RCAS1は、予後不良な患者から得られた腫瘍で高頻度に発現していること、および免疫細胞に細胞死を誘導するところから、腫瘍細胞免疫系からの逃避機構に関与していると考えられてきた。さらに、造血前駆細胞の表面にRCAS1受容体が存在していることが証明され、RCAS1が造血の調節に何らかの役割を果たしていることが示唆された。RCAS1による造血の制御メカニズムを明らかにするために、RCAS1を産生する血液細胞であるマクロファージに注目し、造血細胞の生存に及ぼす影響を検討した。活性化マクロファージは、赤芽球系前駆細胞の細胞死を誘導し、RCAS1の中和抗体が、この効果を消失させた。この所見は、マクロファージが分泌するRCAS1が細胞死を誘導することによって造血を負の方向にも調節していることを宗す所見である。おそらく炎症の際に見られる貧血には、このマクロファージによる造血抑制が関与しているものであると考えられる。マクロファージが分泌するRCAS1が、造血細胞のアポトーシスを誘導するという本研究の結果は、換言すれば、RCAS1を中和することが、造血幹細胞の体外での増幅に有効である可能性を示唆する所見である。
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