造血関連転写因子であり、かつ造血器腫瘍における遺伝子変異の標的となるAML1(RUNX1)は、細胞系譜や発生時期などの状況に応じて、転写活性化にも抑制化にもいずれにも働きうる分子として特徴づけられる。当該研究ではAML1の転写抑制サブドメインであるC末端VWRPYモチーフを欠くマウスを作成し、その表現型を解析した。 VWRPYモチーフを欠損するAML1Δ446変異体のcDNAを作成し、相同組み換えを用いて野生型ES細胞のAML1遺伝子座にこの変異cDNAを導入した。そして、キメラマウス形成を経て、型どおりgermlineマウスを樹立した。生誕したホモ接合マウス(AML1^<Δ446/Δ446>)はSPF環境下では既報の全長のcDNAノックインマウス(AML1^<WT/WT>)と同様、健康に生育しホモ接合同士の交配・繁殖も可能であった。 AML1^<Δ446/Δ446>マウスの白血球数や赤血球数には野生型マウスやAML1^<WT/WT>マウスとの相違を見出せず、AML1の転写活性化能こそが造血発生制御に重要であり、C末端の転写抑制サブドメインはこの作用に関しては必須でないことが個体のレベルにおいて明らかにされた。 一方、AML1^<Δ446/Δ446>マウスの胸腺は小さく、対照としたAML1^<WT/WT>マウスや野生型マウスにくらべ、生直後や生後5週齢においてその細胞数は対照の約半数であった。しかし、成獣ではその差は小さく、有意差も認められなくなる傾向にあった。他方、胸腺中のCD4/8細胞分画、CD3発現レベル、アポトーシス細胞あるいは胸腺組織構築等には明らかな変化は観察されなかった。 今後、細胞数減少の分子メカニズムを胎生期の胸腺の検討によって明らかにしてゆく予定であり、これによって胸腺初期発生におけるAML1の生物作用を、その生化学的特性との関連のうえで明らかにしてゆくことができるものと考えている。
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