ヒト急性白血病において高頻度に遺伝子変異の標的となるAML1(RUNX1)遺伝子は、成体型造血の初期発生に重要となる転写因子をコードしている。したがってその詳細な機能解析は白血病発症メカニズムや造血・免疫細胞の発生機構を解明してゆくうえで有用と考えられる。最近の生化学的検討からは、AML1は単純な転写活性化因子ではなく、細胞系譜や発生時期などの状況に応じて、転写活性化とともに抑制化にも働きうる分子であることが明らかにされた。特に、AML1のC末端に座位するVWRPYモチーフは転写抑制作用に関与するが、このサブドメインは種を超えて保存されていることが知られる。そして、たとえばショウジョウバエにおけるオーソログであるruntは、even-skippedという標的遺伝子を抑制することによって体節の発生分化を制御するが、この作用はVWRPY依存的であることが遺伝学的に解明されている。一方、このサブドメインに依存するAML1の作用は哺乳動物ではこれまで特定されていなかった。 そこで当該研究計画ではVWRPYモチーフを欠損するAML1Δ446変異体をノックインさせた遺伝子改変マウスを作製し、その生物作用を個体のレベルで検討した。その結果、まず、AML1の転写活性化能こそが造血発生制御に重要であり、C末端の転写抑制サブドメインはこの作用に関しては必須でないことを明らかにした。さらに、Δ446変異体マウスにおいて胸腺の低形成が観察され、これが胎生後期、受精17日目頃から認められること、また一過性のCD4発現の異常をともなうこと、さらにβ選択についての異常は観察されないこと、などを順次解明した。すなわちAML1のVWRPYモチーフ依存的作用は胸腺の初期発生に深く関与する。今後、この遺伝子改変マウスの表現型を詳細に検討することによって免疫細胞の初期増殖機構解明に貢献できるものと期待される。
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