研究概要 |
我々は,増殖因子の作用機序のひとつであるアポトーシス制御に注目し,特に赤血球系造血に及ぼすEPOのアポトーシス抑制作用について,EPO依存性ヒト白血病細胞株UT-7/EPO及びヒト胎児血由来CD34陽性造血幹細胞から分化させた赤芽球系前駆細胞を用いて検討し,以下の結論を得た. 1.EPO依存性ヒト白血病細胞株UT-7/EPOはEPO除去後,時問依存性にアポトーシスに陥り,その割合は48時間で18.6%,72時間で32.1%,96時間で41.6%であった. 2.EPO除去で誘導されるアポトーシスにおいて,著明なBcl-X蛋白の発現低下とカスパーゼ3,6,8の活性化を認めた. 3.EPO除去で誘導されるアポトーシスは,汎カスパーゼ阻害剤VAD添加で12.6%にまで抑制できた. 4.EPO添加条件下でもMEK1/2阻害剤UO126 100mM前処置にて38.9%の細胞にアポトーシスが誘導されたが,このアポトーシスはVAD前処理にて阻止された.この時,蛋白レベルでのBcl-XLの発現は増加していた. 5.ヒト胎児血から磁気ビーズ法を用いてCD34陽性造血幹細胞を回収し,EPO,lL-3,SCF存在下に培養,分化させて純化した赤芽球系前駆細胞を採取した. 6.赤芽球系前駆細胞をEPO添加条件で培養しても,UO126によるERK1/2の活性化阻害で40%以上の細胞にアポトーシスが誘導されたが,VAD前処理にてこれが阻止され,蛋白レベルでのBcl-XLの発現は増加していた. 以上より,赤血球系造血における抗アポトーシス作用に関してはMAPキナーゼ経路が重要であり,EPO存在下におけるMAPキナーゼ経路は,Bcl-XLのメッセージレベルでの調節と,下流のカスパーゼ経路を抑制してBcl-XLの蛋自レベルでの切断を抑制する二重の経路により,抗アポトーシス作用を発揮することを明らかにした。
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