PU.1はEtsファミリーに属する転写因子であり、マウス赤白血病(MEL)の発症に深く関わるものと考えられている。我々は以前、PU.1の過剰発現によりMEL細胞の分化が抑制されることを報告した。PU.1は下流に位置する遺伝子の発現を制御することにより分化の抑制を行っている可能性が考えられたため、PU.1を過剰発現したMEL細胞中で発現が変化する遺伝子をDifferential Display法によりスクリーニングしたところ、発現が上昇する未知の遺伝子の中に、本来はT細胞および胚性腫瘍細胞で高く発現している遺伝子が存在した。そこで本年度は、この遺伝子をマウス脾臓由来のcDNAライブラリーよりクローニングした。本遺伝子の転写産物は約8kbという長いものであったが、約1.1kbの読み枠がcDNAの5'末端付近に存在し、それはカルモデュリン依存性蛋白質リン酸化酵素と相同性を持つリン酸化酵素として知られているヒトcalcium-calmodulin-dependent kinase I-like kinase(CKLiK)遺伝子とDNAレベルで約90%の相同性を持っていた。アミノ酸レベルでもCKLiKと高い相同性を示し、得られた遺伝子はCKLiK遺伝子のマウスホモログであると考えられた。しかしながら、カルボキシル末端の約30アミノ酸には相同性は認められず、さらにスプライシングの違いに由来すると思われるカルボキシル末端の異なるアイソフォームが存在することも明らかとなった。次に、同遺伝子がMEL細胞の増殖・分化におよばす影響を探るため、それぞれのアイソフォームに対する発現ベクターを作成し、MEL細胞に導入した。現在、各々2系統ずつの遺伝子導入細胞株を得ているので、これらを使って細胞増殖の検索や分化誘導実験等を行なう予定である。
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