PU.1はEtsファミリーに属する転写因子であり、マウス赤白血病(MEL)の発症に関わるものと考えられている。我々は以前、PU.1はMEL細胞の分化を抑制することで白血病化に寄与する可能性を示した。本研究ではPU.1の下流に位置しMELの発症に関与する遺伝子を単離する目的で、PU.1を過剰発現したMEL細胞中で発現が変化する遺伝子をDifferential Display法によりスクリーニングし、発現が上昇する新規遺伝子のひとつをマウス脾臓由来のcDNAライブラリーより単離した。本遺伝子はカルモデュリン依存性蛋白質リン酸化酵素として知られているヒトCKLiK遺伝子と高い相同性を示したためmouse CKLiK(mCKLiK)と名づけた。同遺伝子はマウス胸腺で高く発現しており、またFISHによりマウス第2染色体のA2-A3領域に存在することが示された。遺伝子産物にはカルボキシル末端の異なる2つのアイソフォーム(mCKLiK-αとmCKLiK-β)が存在したので、これらをそれぞれMEL細胞中で過剰発現させその影響を検索した。10%血清を含む通常培地中ではこれら2つの細胞の増殖に差異は見られなかったが、低血清(1%)培地中では両細胞とも増殖が抑制されアポトーシスが誘導された。さらに低血清培地中で、カルモデュリン依存性キナーゼを活性化することが知られているイオノマイシンを投与したところ、mCKLiK-βを過剰発現した細胞では増殖がさらに抑制されアポトーシスがより高率に誘導されたが、mCKLiK-αを過剰発現した細胞ではアポトーシスは逆に抑制された。またβ-globin遺伝子の発現を指標とした検索から、MEL細胞の赤血球分化はいずれのアイソフォームによっても抑制されないものと考えられた。これらのことからmCKLiK遺伝子はPU.1により発現誘導され、MEL細胞の増殖やアポトーシスに関与しているものと推察された。
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