研究概要 |
本研究はナトリウム・重炭酸共輸送体(NBC1)の機能と構造の相関を解析し、NBC1の生理的・病態的意義をさらに明らかにするために立案された。そのため申請者らは眼症状を伴う近位尿細管性アシドーシス症例のcDNAスクリーニングにより新規NBC1変異を同定した(a2311x, T485S, A799V, R881C)。既報の変異と合わせ、NBC1変異には現在までのところ特定の集積部位(hot spot)は見出せなかった。またアフリカツメカエル卵母細胞において発現実験を施行した結果、近位尿細管性アシドーシスを生じるためにはNBC1機能が著しく低下すること(少なくとも野生型機能の半分以下)が必要なこと、および変異体によっては卵母細胞膜への発現障害が生じることなどが判明した。また比較的機能が保たれている変異体では野生型NBC1と比べてその輸送特性(Na親和性、stoichiometryなど)に大きな変化がないことも示された。一方、特異的抗体を用いて行ったヒトおよびラット膵臓の免疫組織化学的解析により、膵管かちの重炭酸分泌機構において膵型輸送体(pNBC1)が極めて重要な役割を果たすことが確認された。近位尿細管性アシドーシス症例における高アミラーゼ血症と合わせNBC1変異と膵機能障害の関連が強く示唆された。またヒト正常腎臓においては腎型輸送体(kNBC1)が近位尿細管基底側膜に限局して発現し、重炭酸再吸収経路として機能することが示された。さらにkNBC1は腎癌組織においては細胞膜および細胞質内に豊富に発現していることが初めて示され、NBC1輸送体が腎癌の悪性転化もしくは転移機構に関与すること示唆された。
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