培養ラット腹膜中皮細胞を用い、高浸透圧依存性アポトーシスのシグナル伝達機構を検討した。メディウム浸透圧を700mOsmまで増加させると、チトクロームCがミトコンドリアから細胞質に漏出し、caspase-3活性化が起こり、アポトーシスが誘導された。チトクロームC漏出の機序を明らかにするため、アポトーシス関連蛋白の発現量を検討したが、p53蛋白は減少し、Bax、Bcl-2、Bcl-XLの蛋白量は変化なく、アポトーシスへの関与は低いと考えられた。高浸透圧負荷によるミトコンドリアへの物理的な力の関与を想定し、単離ミトコンドリアを用いて、ミトコンドリアのサイズ変化、チトクロームCの漏出を検討した。KCI、グルコース添加により高浸透圧負荷をかけるとミトコンドリアサイズは減少し、このサイズの変化に添加した溶質による明らかな差はなかった。しかし単離ミトコンドリアからのチトクロームCの漏出はNaCl、KCl添加の場合においてのみ認められ、スクロース、グルコース添加では認められなかった。ミトコンドリアからのチトクロームCの漏出は高浸透圧による物理的な外膜の破壊ではなく、電解質濃度に特異的であり、また20μMのサイクロスポリンA(CsA)が単離ミトコンドリアからのチトクロームCの漏出を抑制したことより、チャネルを介したチトクロームC漏出が示唆された。実際、CsAは高浸透圧依存性のcaspase-3活性化を濃度依存性に抑制した。細胞が高浸透圧条件にさらされると、細胞質ではKClなどの電解質濃度がはじめに上昇し、その後、有機浸透圧物質に置換される。高浸透圧負荷直後の電解質濃度の上昇がミトコンドリアからのチトクロームC漏出、アポトーシス誘導に重要な働きを持つと考えられる。
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