2005年末の維持透析患者は25万人を超えた。透析患者の一人当たりの医療費が年間約500万円であることを考えると、透析療法に使われる医療費は年間、1兆2000億円にも達し、医療経済的にも医療費の高騰という面から大変な問題になっている。その根本的な対策は、透析が必要になる腎不全の発症を減らすことにある。我々は、カリクレイン-キニン系が腎障害と密接な関係にあることを証明してきた。そこで、ヒト組織(腎)カリクレインの遺伝子多型が、腎不全の発症に関連するかどうかを明らかにし、腎不全発症抑制につながる治療法開発に寄与できるか検討した。そこで本研究では、まず当院および関連施設にて健康診断を受けた人(健康ボランティア)あるいは透析中の患者様(腎不全)に参加していただき、遺伝子採血および臨床データを収集させていただいた。その結果、2000名を超える健康ボランティアと1000名近い腎不全患者様に参加いただくことができた。これらの遺伝子の抽出および臨床データの蓄積、前向き検討による生命予後予測のためのデータ等を継続的に調査させていただいている。次に、我々はカリクレイン遺伝子発現量に、関係している可能性のある5'上流域のSNPとエクソン4のSNPの発現頻度を健常者と慢性腎臓病患者・腎不全患者で比較検討した。しかし、今回の成績ではこれらのSNPsと腎不全発症との関連を認めなかった。一方、我々はKLK1遺伝子の5'上流域のSNPとエクソン4のSNPが連鎖することを発見した。さらに、エクソン4遺伝子多型と維持透析患者の約3年の前向き検討において、Kaplan-Meier法による生存分析で有意な関連を認め、また、多変量解析においても死亡との関連が示唆された。以上より、KLK1遺伝子多型は、腎臓病発症との強い関連は示されなかったが、維持透析患者の生命予後とは関連する可能性があり、今後その病態生理的意義と役割について更なる検討が必要と思われた。
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