P-糖蛋白質(P-gp)を欠損したマウス(KO)とその野生型マウス(WT)の近位尿細管S2セグメントをcollapseした状態で灌流し、細胞容積調節におけるP-gpの役割の解明と細胞容積調節に関わるトランスポーターの同定を試みた。基底側の浸透圧を300から180mOsm/kgH_2Oに低下させると、細胞容積はWT、KOマウスいずれも一過性の増加後に調節性容積減少(RVD)を認めた。WT、KOマウス共に、2つのP-gpの阻害薬(verapamil、cyclosporin A)存在下で、低浸透圧刺激を加えてもRVDは不変であった。KOマウス近位尿細管にmannitolによる高浸透圧刺激(500mOsm/kgH_2O)を加えると、細胞容積は一過性の減少後に調節性容積増加(RVI)を認めたが、WTマウスでは細胞容積は減少したままで、RVIは出現しなかった。WTマウスでは、上記P-gpの阻害薬存在下でmannitolによる高浸透圧刺激を加えるとRVIが出現したが、有機カチオン輸送体の阻害薬(tetraethylammonium)存在下でmannitolによる高浸透圧刺激を加えてもRVIは起こらなかった。KOマウスでは、細胞外液Na除去やNa/H交換輸送体(NHE)の特異的阻害薬(ethylisopropylamiloride、EIPA)添加により、mannitolによる高浸透圧刺激で出現したRVIは完全に消失した。WTマウスでは、P-gp阻害薬存在下でmannitolによる高浸透圧刺激を行った時に出現したRVIは、細胞外液Na除去やEIPA添加により完全に消失した。mannitolによる高浸透圧刺激で、KOマウス近位尿細管基底側膜のNHEは活性化されたが、WTマウスでは起こらなかった。WTマウスの近位尿細管にcyclosporin A存在下でmannitolによる高浸透圧刺激を加えると、NHEの活性化が出現した。以上より、1)マウス近位尿細管で、P-gpは低浸透圧刺激時に出現するRVDには関与しない、2)P-gp活性非存在下では、mannitolによる高浸透圧刺激でRVIが起こるが、P-gp活性存在下では起こらない、3)mannitolによる高浸透圧刺激で出現するRVIは、基底側膜のNHEの活性化を介して起こる、ことが明らかになった。
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