腎障害悪化因子亢進による細胞外基質産生亢進を抑制することが腎障害進展抑制のために重要であると考えられている。本研究ではバイグリカンの腎障害・血管障害に対する作用とその機序を検討することを目的とした。αSMAプロモーターの下流にヒトバイグリカンcDNAを挿入しバイグリカン過剰発現マウス(Tg)を得た。Tgマウスの外観は野生型マウスと同様であったが、大動脈や腎細動脈のPCNA染色ではPCNA陽性細胞数の有意な増加を認め、また中膜、中膜/内腔比の増加を認めた。また培養細胞にバイグリカンを投与すると細胞数の増加、[3H]thymidineの取り込みが濃度依存的に増加した。次に腎障害に対する作用を明らかにするためにTgマウスおよび野生型のlittermate(WT)に一側尿管結紮(UUO)を施し、結紮5日後(n=10)、14日後(n=18)に腎臓を摘出、間質のコラーゲン合成と線維化をMasson-trichrome染色、SiriusRed染色、real-time RT-PCR、免疫染色で検討した。UUO 5日後ではWTとTgにおいてコラーゲン合成において有意な変化を認めなかったが、14日後では1型コラーゲン合成の亢進がTgマウスにおいて有意に抑制(p<0.05)にされていた。またTGF-β1発現は野生型・Tgマウス共にUUO施行でその発現が亢進していたが、その発現上昇はTgマウスでは野生型マウスに比して抑制されていることが明らかとなった。またin vitroの検討では、培養線維芽細胞に対するTGF-β1の増殖促進活性がバイグリカンの前処置により濃度依存的に抑制されることが示された。以上より、バイグリカンが腎間質の線維化抑制作用を有することが示唆され、その機序としてTGF-βの発現抑制と活性阻害が関与している可能性が示唆された。
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