腎障害の慢性期では初期の障害原因にかかわらず腎間質病変の進展が共通した病態として観察され、その程度が腎機能の予後を規定する。 本研究ではラット腎障害モデルを用いて、自家単核球移植による慢性期腎間質障害での微小血管再生とその再生機序ならびに臨床的効果にっいて検討を試みることを当初の目的としていた。まず、慢性モデルとして用いたハブ毒およびアンジオテンシンII低用量持続投与ラットでは、血圧の上昇を来たすことなく、明らかな糸球体および尿細管間質障害が比較的短期(〜6週)に観察された。また、腎機能変化も血中尿素窒素、血清クレアチニンの有意な上昇を観察し得た。移植実験であるが、PKH2-G1で細胞表面をグリーンラベルされた骨髄細胞では、腎組織においてはFITC波長での自家発光が高度であるために特異的シグナルの同定が困難であった。そこで最終的に移植に用いた細胞はLacZ遺伝子を導入したヒト末梢血由来単核球であった。すなわち、ヒト末梢血より単離後、培養7日目の細胞に、超音波造影剤を用いた非ウィルスベクター法によってLacZ遺伝子を導入したところ、約50%の遺伝子導入が可能であった。同細胞を開腹後、経腎静脈的に片腎に移植した。細胞の生着を観察するために行ったヌードラット虚血再環流モデルにおいて、移植後4日目の腎組織で、β-galacosidase陽性細胞は尿細管に分布しており、当初のFITCでの観察では不明確であった尿細管周囲血管網への生着は認めなかった。尿細管に分布したβ-galacosidase陽性細胞の分化を同定するために移植後7日目に免疫染色を施行したが、AQP-1がβ-galacosidaseと共染色された。第8因子と共染色される部位は見いだせなかった。ラット慢性腎障害モデル(ハブ毒+AngII持続注入)で同様の実験を行い、移植後最長6週までの観察を行ったが、組織変化および腎機能の改善効果は見いだせなかった。しかしながら、ヒト末梢血由来単核球細胞は経腎静脈的な移植によって、腎尿細管に生着可能であり、また、その少なくとも一部は尿細管細胞に分化することが観察されたことは、今回の基盤研究での大きな成果であったと考える。
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