副腎アンドロゲンであるDHEA(S)は、抗老化ホルモンとしての作用を持つのではないかと注目されている。しかし、その分子生物学的作用の詳細なメカニズムは依然不明である。今回、我々は、生活習慣病の発症進展に如何にDHEA(S)が関与しているかを詳細に検討した。 DHEAの耐糖能改善効果に関する研究 DHEAは、ラット脂肪細胞において、phosphatidylinositol 3-kinase (PI3-kinase)とatypical-protein kinase C (a-PKC)を活性化させることを明らかにした。この活性化は、インスリンによる脂肪細胞へのブドウ糖取り込みを促進させる事から、DHEAによるインスリン作用促進の機序のひとつと考えられた。 DHEAの抗肥満作用、肥満による弊害の防止効果に関する研究 DHEAは、培養脂肪細胞において、peroxisome proliferator-activated receptor-・ (PPAR-・)の発現レベルを抑制し、脂肪細胞中の中性脂肪含量も減少させる事を明らかにした。DHEAは、この脂肪細胞において、PPAR-・のmRNA発現レベルのみならず、adipocyte lipid-binding proteinやsterol regulatory element-binding proteinのmRNA発現レベルも抑制することを明らかにした。これらより、DHEAは脂肪細胞の生体における機能や形態にDHEAが大きく関与していることを示唆した。しかし、CCAAT/enhancer binding proteinのmRNA発現レベルについては、影響を与えない事も明らかにした。 DHEAの乳癌細胞増殖に関与する機序についての研究 一方、ヒト乳癌培養細胞においては、DHEAが細胞増殖を促進することを明らかにした。これは、DHEA、DHEASが17・-estradiol(E2)と同様、mitogenとして乳癌細胞に作用しているためで、DHEAからE2への変換を阻止するアロマターゼ阻害剤(4-hydroxyandrostendione;4-OH-A)によって、完全に阻害できる事も明らかにした。 以上、インスリン抵抗性と糖尿病、肥満とその弊害、乳癌細胞増殖などの生活習慣病の進展機序にDHEAは深く関与しており、予防や進展阻止のためにDHEA(S)が、有用であろうことを明らかにした。
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