研究概要 |
(1)バセドウ病発症に及ぼす遺伝的背景:我々は近年、TSH受容体発現アデノウイルスを連続筋注することによってBALB/c(H-2d)マウスに高頻度にバセドウ病を誘導できることを報告した。今回遺伝的背景のバセドウ病発症に及ぼす影響を検討するため、BALB/cとMHCのみが異なるマウス[即ち、congenic mice ; BALB/K(H-2k)]と、MHC以外が異なるマウス(DBA/2J)を同様に免疫した。前者での発症率はBALB/cと同等であったが、後者では発症率の著しい低下が認められた。よって、バセドウ病発症を規定する遺伝子はMHC外に存在することが示唆される。 (2)バセドウ病発症に及ぼす環境因子:環境中の微生物感染のバセドウ病発症に及ぼす影響を検討するため、SPFの状態或いは通常の環境中で飼育したBALB/cマウスを免役した。しかし発症率に有意な差は薄められなかった。さらに大腸菌膜成分であるLPSや酵母菌膜成分であるzymosan A投与も影響を与えなかった。疾患発症に及ぼす微生物暴露の影響は小さいと考えられる。 (3)バセドウ病発症に及ぼす免疫反応のTh1/Th2バランス:Th1サイトカイン(interleukin-12;IL-12)とTh2サイトカイン(IL-4)の影響を検討するため、これらサイトカインを発現するアデノウイルスを作成し、TSH受容体発現アデノウイルスと共に筋注した。IL-4はTSH受容体に対する免疫反応をTh2にシフトさせ(抗TSH受容体抗体IgG1/IgG2a比上昇、脾細胞からの抗原特異的interferon-g分泌低下)、疾患発症を抑制したが、IL-12は免疫反応をTh1にシフトさせたものの(脾細胞からの抗原特異的interferon-g分泌増加)、疾患発症は不変であった。さらに、同様にTh2免疫反応を誘導すると言われているα-galactosylceramideと寄生虫(マンソン住血吸虫)感染の疾患発症に及ばす影響を検討した。いずれを用いても抗原提示時にTh2偏倚を誘導すると、疾患発症が有意に抑制された。バセドウ病発症におけるTh1反心の重要性が示唆される。しかし、免疫反応成立後は無効であったことより、Th2偏倚はバセドウ病の予防効果はあるものの、治療的意義は低いと考えられる。 (4)抗TSH受容体抗体のエピトープ解析:linearエピトープをペプチドを用いて解析し、受容体細胞外領域のN端に立置することを見出した。また、マウスにバセドウ病を誘導するためには、全長受容体遺伝子を用いるより、Aサブユニットをコードする遺伝子を用いる方が効率が上がることを見出した。このことも受容体蛋白N側の抗原性の高さを示唆している。この方法では1/10,000量のアデノウイルス量でも効率よく疾患を誘導できることも見出した。 (5)B細胞欠損マウスを用いて、T細胞反応は正常のB細胞の存在が必須であることが明らかとした。抗原提示細胞としてのB細胞の重要性を示唆していると考えられる。
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