1:ポリオール代謝と糖尿病性神経障害 ポリオール代謝と糖尿病性神経障害の関係を明らかにするため、ARノックアウトマウス(KO)およびARトランスジェニックマウス(Tg)に糖尿病を発症させ、神経障害が生じるか検討した。AR活性は、KOでは検出感度以下で、Tgでは対照(Wt)の2倍に亢進していた。神経内ソルビトールは、糖尿病KOで正常対照以下に抑制され、糖尿病Tgでは、糖尿病Wtに比し2倍の蓄積がみられた。神経伝導速度は、糖尿病Tgで対照に比し有意に遅延したが、糖尿病KOでは、非糖尿病Wtとの間に有意な差はみられなかった。形態計測では、糖尿病Tgでは、対照に比し有意な有髄神経線維径の低下がみられたが、糖尿病KOでは変化がみられなかった。糖尿病Tgに見られた変化は、何れもAR阻害剤により有意に改善された。以上の結果より、ポリオール代謝の亢進が、糖尿病性神経障害の発症、進展に重要な役割を持つことが明らかとなった。 2:ポリオール代謝亢進に伴う神経PKC活性異常の解析 ポリオール代謝亢進に伴う細胞障害機構として、神経に生じたPKC活性異常について、Tgを用いて解析した。その結果、糖尿病Tgでは、有意な神経伝導速度の低下と共に、神経膜分画PKC活性の有意な低下を示し、これは、AR阻害剤の投与により有意に改善された。PKCアイソザイム発現量変化の検討から、これらは主としてPKCαの発現量変化によりもたらされていると考えられた。このことから、高血糖により惹起されたポリオール代謝亢進と連動して、PKCα発現量変化により神経PKC活性は低下し、このことが糖尿病性神経障害の発症に重要な働きを果たしている事が明らかとなった。 3:今後の予定 今後は、本モデル動物を使用し、より詳細な発症機構の解明をめざし、成因に基ずく糖尿病性合併症治療法の開発をめざす予定である。
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