研究概要 |
C57BL/6バックグラウンドのSmad3欠損マウス(KO)を作製し,PIT (photo-induced thrombosis)法を用いて欠損マウスおよび野生型マウス(WT)大腿動脈に内皮傷害を加えた。傷害後1〜4週で、WTに比べKOの大腿動脈では平滑筋細胞の増生による著しい内膜肥厚病変を認めた。マウス大動脈より平滑筋細胞を分離・培養し、その生物学的機能を解析したところ、TGF-βはWT細胞の増殖活性を抑制したが、KO細胞ではその効果が著しく減弱していた。また、TGF-βによるマトリクス沈着作用もWT細胞に比べ、KO細胞で減弱していた。TGF-βによる遊走活性は両細胞に差異を認めなかった。KOマウスでは血管平滑筋細胞がTGF-βによる細胞抑制に抵抗性を示すと共に、マトリクス量の減少により中膜から内膜への遊走が促進される結果、著しい結果として内膜肥厚をたらしたと考えられる。 さらにストレプトゾトシン惹起糖尿病モデルを用いてWTとKOマウスの糸球体病変の性質を検討した。糖尿病発症4週の時点でWTマウスでは非糖尿病コントロールに比べ、尿中アルブミン排泄の有意な増加と形態学的に有意な糸球体基底膜の肥厚がみられた。一方、KOマウスでは糖尿病によるこれらの変化を認めなかった。KOマウスの糖尿病糸球体変化に対する抵抗性の機序を探るため、マイクロビーズ法によりマウス糸球体を単離し、リアルタイムPCR法を用いて各種マトリクス遺伝子の発現を検討した。すると、WT、KOマウスとも糖尿病により糸球体におけるTGF-β1の発現が上昇したが、フィブロネクチンとIV型コラーゲン(α3)の発現はWTでのみ上昇し、KOでは不変であった。したがって、糖尿病性糸球体初期病変の形成にはSmad3が重要な役割を担うと考えられ、新しい治療のターゲットとなることが示唆された。
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