我々は脂肪細胞のモデルである3T3-L1脂肪細胞をphospholipase C (PLC)の阻害剤であるU73122で前処置すると、インスリンによる糖取込みが抑制されることを確認した。さらに野生型PLCγを発現するアデノウイルスを3T3-L1脂肪細胞に感染させPLCγを過剰発現させると、糖取込みがインスリン非存在下でPLCγ発現量依存的に亢進することを発見した。しかしPLCγ過剰発現はインスリン受容体やAktなどのインスリンシグナル蛋白の燐酸化にはあまり影響しなかった。一方atypical PKCの燐酸化は亢進し、主にatypical PKCがPLCγによる糖取り込みに関与している可能性を見いだした。 またセリン/スレオニンフォスファターゼである野生型protein phosphatase 2C (PP2C)をアデノウイルスを用い3T3-L1脂肪細胞に過剰発現させると、PI-3キナーゼのp85サブユニットのセリンを脱リン酸化する事により、PI-3キナーゼ以降のシグナルを正に調節していた。一方、インスリンによるIRS-1のdegradationは加速された。さらにPP2CのiRNAを発現させることによりPP2C蛋白発現を抑制するとインスリンによるIRS-1のdegradationが抑制された。またPP2CによるIRS-1のdegradationの亢進はプロテアソーム阻害剤のラクタシスチンにより完全に抑制され、proteasomal degradationによることが確認された。さらにPI-3キナーゼの阻害剤であるワルトマニンにより部分的に抑制されPI-3キナーゼの関与が示唆された。PP2CはPI-3キナーゼを介して、インスリン情報伝達を正と負、両方に関与している事が示唆された。
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