膵臓を障害すると壊死に陥った組織に炎症細胞が浸潤し、線維芽細胞が増殖する。この近傍の膵腺房からはtubular complexと呼ばれる複数の導管が増殖するため、壊死組織や線維芽細胞と膵腺房の相互作用が示唆される。経時的にみると線維芽細胞はtubular complex形成を阻害しないが、その後協調的な分化誘導を阻害しているようにみえ、epimorphic regenerationには至らない。この現象を解析する目的で、障害膵に機能性細胞が移植できるTCPHI法(経胆嚢膵管導入法)を応用した。今回膵管増殖作用のあるFGF7を常時発現する線維芽細胞を障害膵のtubular complex近傍に存在させ、膵管増殖が継続されるかどうかを調べた。tubular complexは胎児期のpancreatic rudimentと形態学的にも分子レベルでも類似性があり、epimorphic regenerationを遂行しうる能力が有ることが推測された。蛍光色素で染色した移植細胞は膵腺房の近傍に位置し、増殖とともに腺房間に拡散していた。一般的に膵障害時、再生反応は2週間以内に終息することが報告されているが、今回われわれは障害3ヶ月後も増殖マーカーによるproliferation indexにて増殖中と確認された膵導管を多数確認した。また膵導管から腺房細胞だけでなく、ランゲルハンス島に分化する移行細胞も確認した。移植細胞からはFGF7以外の成長因子も分泌されるため、現在FGF7単独の作用かどうか解析中である。今後完全再生には各種成長因子を組み合わせたカクテルが必要であると考えられる。FGF7のブレオマイシンによる肺線維症抑制効果が報告されているが、我々の系では増殖分化中の膵腺房内に線維化を認めない。臓器線維化が増殖分化停止の原因か結果かを、今後FGF相互作用の視点から解析する。
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