研究概要 |
細胞コレステロール搬出にかかわるアポリポタンパク質レセプターならびに細胞内情報伝達系の解析のため、ヒト由来細胞株293を用いた実験を行い、以下の成果を得た。 1)アポAI依存性HDL形成のない293にABCA1-GFPを導入した。GFPの蛍光強度を指標に高発現株を選択したところ、非常に高いアポAI依存性HDL形成を示した。 2)同様にTangier病患者で報告されたものを含む各種変異を導入したABCA1-GFPについても高発現株を得た。野生型ABCA1-GFPに比べ、アポAI依存性コレステロール放出とリン脂質放出は減少していたが、その程度は株毎に異なっていた。 3)GFPの蛍光を利用して上記1)、2)の株でのABCA1-GFPの細胞内分布を調べると、野生型ABCA1-GFPは主に細胞膜に分布していたが、変異ABCA1-GFPの分布は変異の種類毎に異なっていた。 4)ABCA1と相同性の高いABCA7のアポAI依存性HDL形成作用への影響を調べるため、293へABCA7-GFPを導入した。一過性発現細胞でも、安定発現株でも、アポAI依存性にコレステロールとリン脂質を含むHDLの形成が認められた。 5)ABCA1-GFP発現株のアポAI依存性HDL形成はdBcAMP, PMAで増強されたが、ABCA7-GFP発現株のアポAI依存性HDL形成はdBcAMPの影響は受けず、PMA処理時にはよりかえって減弱した。 以上より、Tangier病患者で見られるABCA1の変異がアポAI依存性HDL新生反応減弱をもたらす機序は単一ではなく、変異の種類毎に異なることが示唆された。 また、ABCA7にはABCA1と同様に、293細胞にアポAI依存性HDL生成能をもたらすことが示された。しかし、薬物投与に対する変化に差があることから、両者の活性調節機構は異なるものと推定される。
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