血糖の感知とインスリン産生の生理的制御を行なうには、門脈の解剖学的特性が極めて重要であり、我々はその観点から、肝臓に膵β細胞を機能的に代替させる新しい糖尿病の制御システムを考案した。furinでモディファイしたインスリン遺伝子を高圧下静脈内投与する系においてストレプトゾトシン誘導糖尿病マウスの治療実験を行い、インスリンを強力なユビキタスプロモーター(CAGプロモーター)にてドライブする場合と、ラットインスリン・プロモーター(RIP)にてコントロールする場合の両方を比較検討した。さらに遺伝子導入・発現の効率を飛躍的に向上する、EBVプラスミドベクターを採用したが、EBNA1遺伝子上流のプロモーターとしても、同様にCAG、またはRIPを組み込んだ。CAGプロモーターの場合には空腹時血糖の著明な低下が認められ、コントロール群が350-400であるのに対し投与群では100以下と著しい血糖低下を呈していた。一方で、RIPを用いた群では空腹時血糖の低下は全く認められず、インスリンのELISAでも有意な上昇は見られなかったが、グルコース負荷試験にて血糖依存性のインスリン発現が認められた。これらの結果は、INS導入により。血糖のコントロールが肝臓で可能であること、プロモーターの種類を選ぶことにより正常空腹時血糖をもたらす高発現か、グルコース濃度依存的な制御かを選択することができ、これらの組み合わせにより将来的に必要十分な耐糖能を獲得できる可能性を示している。さらにルシフェラーゼアッセイとRT-PCR解析にて、インスリンプロモーターによる血糖依存性転写活性が肝細胞が認められることを始めて見出したが、これは膵β細胞と肝細胞がその発生過程においてリニエージを共有しており、肝臓によるβ細胞の機能代替が門脈系に着目した再生遺伝子療法によって効率的に行なえる可能性を強く示唆するものである。
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