研究概要 |
【目的】われわれは以前アポE2遺伝子が糖尿病性腎症と関連することを初めて報告した(Atherosclerosis 107:203,1994,Clin Genet 48:288,1995)。アポE2が糖尿病性腎症の発症、進展に関与する機序については不明である。今回、アポE2由来IDLおよびアポE2自体の正常ヒトメサンギウム細胞に対する影響を検討した。【対象と方法】アポE2/2遺伝型,アポE3/2遺伝型,アポE3/3遺伝型を有する2型糖尿病患者より早朝空腹時に採血した。血漿から超遠心法にてIDL(1.006<d<1.019)を分離し24時間透析した。得られたIDL(培養液中50μg/ml proteinの濃度)を、またアポE2,アポE3,アポE4自体を、48時間リポ蛋白を含まない培地で培養した正常ヒトメサンギウム細胞に添加し、24時間培養後PKC活性を測定し、同時に培養液中のTGF-β、Type IV collagen、FibronectinをELISA法にて測定した。PKC inhibitorを添加実験も行った。TGF-βのmRNAの発現も検討した。【結果】アポE2/2,アポE3/2,アポE3/3 IDLで培養した場合、PKC活性はそれぞれ26.1、13.2、7.6pmol/min/Proteinであり、アポE2/2およびアポE3/2 IDLはアポE3/3 IDLに比べて有意にPKC活性を亢進させた。アポE2/2,アポE3/2,アポE3/3DLで培養した細胞培養液中のTGF-βは、456±19、417±10、204±15pg/mlであり、アポE2/2およびアポE3/2 IDLはTGF-β産生およびTGF-βのmRNAの発現を有意に亢進させた。PKC inhibitorの添加実験によりTGF-β合成は抑制された。細胞培養液中のtype IV collagenとfibronectinについてもアポE2/2およびアポE3/2 IDLはその合成を有意に亢進させた。またアポE2,アポE3,アポE4自体は正常ヒトメサンギウム細胞に対して影響を与えなかった。【結論】糖尿病患者由来アポE2 IDL(レムナントリポ蛋白)は、ヒトメサンギウム細胞においてPKCを活性化し、さらにTGF-βおよびマトリックス蛋白合成を亢進させ、腎症の進展と増悪に関与している可能性が示唆された。
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