研究概要 |
【目的】脂質代謝異常は大血管障害だけではなく、腎障害とも関連するといわれている。アポEはTG-richリポ蛋白(VLDLレムナントであるIDLを含む)の主要蛋白の1つであり、リポ蛋白受容体へのリガンドとして脂質代謝に重要な役割を果たしている。アポEには遺伝的多型性(アポE2,E3,E4)が存在する。アポE3がparent formである。アポE2は158番目のArgがCysに変異したもので、受容体への結合能が低いためにIII型高脂血症(アポE2/2遺伝型)、高レムナント血症、高TG血症を惹起する。われわれは以前アポE2遺伝子が糖尿病性腎症と関連することを初めて報告した(Atherosclerosis 1994,Clin Genet 1995)。しかし、アポE2が糖尿病性腎症の発症、進展に関与する機序については不明である。今回、アポE2由来IDLおよびアポE2自体の正常ヒトメサンギウム細胞に対する影響を検討した。【対象と方法】アポE2/2遺伝型,アポE3/2遺伝型,アポE3/3遺伝型を有する2型糖尿病患者より早朝空腹時に採した。血漿から超遠心法にてIDL(1.006<d<1.019)を分離し24時間透析した。得られたIDLを、またアポE2,アポE3自体を、48時間リポ蛋白を含まない培地で培養した正常ヒトメサンギウム細胞に添加し、24時間培養後PKC活性を測定し、同時に培養液中のTGF-β、Type IV collagen、FibronectinをELISA法にて測定した。TGF-βのmRNAの発現も検討した。【結果】アポE2/2,アポE3/2,アポE3/3 IDLと培養した場合、PKC活性はそれぞれ26.1、13.2、7.6pmol/min/proteinであり、アポE2/2およびアポE3/2 IDLはアポE3/3 IDLに比べて有意にPKC活性を亢進させた。アポE2/2,アポE3/2,アポE3/3 IDLと培養した細胞培養液中のTGF-βは、456、417,204pg/mlであり、アポE2/2およびアポE3/2 IDLはTGF-β産生およびTGF-βのmRNAの発現を有意に亢進させた。細胞培養液中のtype IV collagenとfibronectinについてもアポE2/2およびアポE3/2 IDLはその合成を有意に亢進させた。またアポE2,アポE3,アポE4自体は正常ヒトメサンギウム細胞に対して影響を与えなかった。【結論】糖尿病患者由来アポE2IDL(レムナントリポ蛋白)が腎症の進展と増悪に関与していることが明かとなった。従って、フィブラート薬剤、EPAや一部のスタチンによる血中レムナントリポ蛋白の抑制が腎症進展を阻止する可能性がある。
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