劇症肝不全に対する補助的同所性部分肝移植術は、肝不全の急性期を移植肝で補助しかつ自己肝再生の可能性を温存する術式であり、自己肝の機能が回復した場合には移植肝から離脱でき免疫抑制剤の継続使用を断ち切ることが可能となる優れた治療法として注目されている。しかし、これまでの報告では移植後の生存率は良好といえず、また自己肝の再生が必ずしも得られないことが少なくない。その一因として、病的自己肝が移植肝機能に悪影響を与える"toxic liver syndrome"が考えられ、TNF-αなどの炎症性サイトカインの関与が示唆されている。そこで強力なTNF-α抑制薬であるONO-SM-362がAPOLT術後に与える影響についてブタ肝移植実験を用いて検討した。体重15〜20kgのブタにα-amanitin(0.1mg/kg)とLipopolysaccharide(1μg/kg)を門脈内投与し劇症肝不全を誘導し、24時間後に健常ブタから採取した部分肝グラフトを用いてAPOLTを施行した。I群は対照群とし、II群にはAPOLT直前にONO-SM-362(0.3mg/kg)を自己肝へ門脈経由で1回だけ投与した(各群n=5)。その結果、I群ではAPOLTを施行したが劇症肝不全からの回復は不十分で5日以内に全例死亡した。一方II群では、肝機能は速やかに回復し全例2週間以上生存し、自己肝の再生も組織学的に確認された。この結果より、I群では移植したグラフト肝の機能が十分ではなく救命することはできなかったが、その原因として"toxic liver syndrome"が疑われた。一方TNF-α抑制薬であるONO-SM-362の投与により、劇症肝不全に対するAPOLT術後の生存率は改善された。今後、TNF-αの変動の解析などからその保護効果の機序について検討する必要がある。
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