抗癌剤docetaxel(DOC)の、乳癌における治療効果予測因子(predictive factor)の同定を目的に以下の検討を行った。対象は、DOCによる抗癌剤治療を行った局所進行乳癌および局所再発乳癌の39例とした。治療開始前に生検で採取した乳癌組織において、DOCの代謝酵素であるCYP3A4、DOCの標的分子のclass I β-tubulin、微小管の脱重合を促進するclass III β-tubulin、さらにBRCA1、BRCA2のmRNA発現量を定量的に解析し、発現量とDOCに対する感受性を比較検討した。その結果、CYP3A4mRNA高発現群の奏効率(11%)は、低発現群の奏効率(71%)より有意に低下していた(P<0.001)。また、class I、class III β-tubulinともに高発現群の奏効率(それぞれ30%、25%)は、低発現群(それぞれ63%、68%)より有意に低率であった(それぞれP<0.05、P<0.01)。さらにclass Iとclass III β-tubulinの発現量を組み合わせると、より強くDOCの感受性と相関した。BRCA2に関しては高発現群の奏効率(25%)は低発現量(100%)より有意に低かったが(P<0.005)、BRCA1の発現量とDOCの治療効果に相関は認められなかった。また、class I β-tubulinに関しては、SSCP法で全領域を検索したが、1例にアミノ酸変化を伴う体細胞変異(コドン306、CGC(Arg)→TGC(Cys))を見い出したのみであり、class I β-tubulinの体細胞変異がDOC耐性メカニズムに関与している可能性はないと考えられた。さらに薬剤排出に関与するP-gpやアポトーシスに関与するp53、BCL-2の発現に関しても免疫組織染色による検討を行なったが、DOCの治療効果と有意な相関は認められなかった。以上の結果から、腫瘍内におけるCYP3A4、class Iとclass III β-tubulin、BRCA2 mRNA発現量は、DOCのpredictive factorとして有用である可能性が示唆された。
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