研究概要 |
【背景・目的】ケモカインレセプターCCR7は成熟樹状細胞および一部のTリンパ球に発現しており、リンパ節に高い発現を認めるCCL21をリガンドとし、免疫担当細胞のリンパ節への走化因子として機能している。近年、乳癌細胞でケモカインレセプターCXCR4の発現が報告され、そのリガンドCXCL12の生体内での発現分布が乳癌の好発転移臓器と一致することから、ケモカインとそのレセプターの関連が乳癌における転移機構の一つとして考えられるようになった(Nature,2001)。一方、胃癌においてリンパ節転移は多くみられる転移形態であるが、ケモカインを利用した転移機構の可能性があるかは不明である。今回、胃癌におけるCCR7の発現とリンパ節への走化、転移との関連を検討した。 【方法】胃癌切除標本64例、胃癌細胞株8株を用いてRT-PCR法、免疫染色法、flow cytometryでCCR7の発現を検索した。CCR7陽性胃癌細胞におけるCCL21刺激下での形態変化をレーザー顕微鏡で、細胞内Ca2+測定をflow cytometryで行った。また、CCL21への走化、浸潤能をmigration, invasion assayで行った。 【結果】切除標本でCCR7の発現がRT-PCR法、免疫染色法ともに陽性だったのは42/64例(65%)であった。臨床病理学因子との相関ではCCR7陽性症例に有意にリンパ節転移、リンパ管浸潤が多く(p<0.001,p<0.001)、深達度においてはCCR7陽性症例に有意に粘膜下層を越える進行症例が多かった(p<0.01)。生存解析ではCCR7陽性症例はCCR7陰性症例に比して有意に予後不良であった(p<0.05)。また多変量解析によりリンパ節転移を規定する最も有意な独立因子としてCCR7の発現が選ばれた。次に胃癌細胞株でのCCR7の発現は5/8株に認め、CCL21の刺激でCCR7を介したシグナルによるアクチン再構築、細胞内へのCa2+流入を認めた。migration, invasion assayでは発現陰性株に比してCCL21に対する有意に高い走化・浸潤能を持っていた(p<0.05,p<0.05)。 【結語】CCR7陽性胃癌細胞株でのCCL21に対する形態変化および走化・浸潤能は臨床検体でのCCR7陽性症例にリンパ節転移、リンパ管浸潤が多いという結果に合致した。胃癌におけるCCR7の発現はリンパ節に発現するケモカインCCL21と共にリンパ節転移の重要な機序として関与している可能性が示された。
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