研究概要 |
好中球、単球系に発現するチロシンキナーゼ型のレセプターのDDR1(Discoidin Domain Receptor)機能解析とシグナル伝達系路の解析を行った。(1)DDR1がコラーゲンとの結合によりリン酸化され、細胞内のMMP1を活性化することが認められておりDDR1刺激に際する細胞内シグナル伝達系路の解析としてコラーゲン刺激前後の末梢単核球(PBMC)のウエスタンブロッティングをおこない細胞内蛋白のリン酸化状態を検討した。この結果、分子量90kDa付近の蛋白に刺激後に明らかに強いチロシン残基のリン酸化が認められたが、この蛋白の同定はできなかった。(2)DDR1の発現を癌細胞で検討した結果、乳癌細胞株のMCF-7においてDDR1の高い発現を恒常的に認めた。DDR1の癌細胞増殖や接着能に対する影響を検計するため、まずDDR1の機能欠如型の遺伝子を作成し、プラスミドでクローニングすることに成功した。(3)このkinase domainを取り除いたtruncated form (sh-DDR1)をretro virusを用いて、乳癌細胞株のMCF7 T-47Dに感染させ、T-47D細胞株においてstable cell lineを分離し、RT-PCR, Western blottingによりDDR1 mRNAおよび蛋白の発現量を確認した。Mockと比較してsh-DDR1はI型コラーゲンへの接着を有意に低下させ、乳癌細胞のT-47Dが発現するDDR1は、コラーゲンと結合する細胞接着への関与が示唆された。(4)また、乳癌細胞T-47Dがコラーゲンプレートに接着する際の細胞の形態的変化を共焦点顕微鏡にて観察した。Mockはpseudopodを伸長した細胞数が増加したが、sh-DDR1はpseudopodの伸長が有意に抑えられた。(5)Pseudopodの伸長は、細胞の接着、遊走、分化等の生物学的活性と関与しているため、コラーゲンゲルの通過能について比較した結果、sh-DDR1の遊走活性は、Mockと比して有意に減少した。このことより、DDR1は乳癌細胞T-47Dの遊走に関与することが分かった。(6)細胞の遊走に関与するsmall G蛋白のcell division cycle42(cdc42)の活性を検討した。コラーゲンの非存在下では、Parental, Mock、sh-DDR1においてcdc42の活性型GTPの変化は認めなかったが、Parental, Mockではコラーゲンの刺激によりcdc42の活性型GTPの増加を認めた、sh-DDR1では活性型GTPの増加は抑制された。このことより、乳癌細胞のT-47DにおけるDDR1を介した細胞遊走活性は、cdc42の活性化に関与していることが示唆された。
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