研究概要 |
我々は、ヒト成体では脳でしか発現していないとされている中胚葉誘導制御遺伝子Eomes(Tbr-2)が、in vitroで線維芽細胞様形態を示すヒト大腸癌細胞株で発現していることを見いだし、ヒト大腸癌細胞株から変異型Eomes(exon5と6の間に57bpの挿入配列がある)の全長cDNAを分離した。変異型Eomesは実際にヒト大腸癌組織でも発現していた。ヒト正常大腸組織でのEomesの発現を調べたところ、意外にも正常組織でも発現していたが、全て57bpの挿入のある型のEomesが発現しており、57bpの挿入のあるEomesの配列が実際には正しい配列であると考えられた。このEomesの全長cDNAをクローニングしXpressタグ付きの発現ベクターに組込み、Eomesを発現していない大腸癌細胞株(HT29,SW48,SW837)および正常上皮細胞株(MDCK)に強制過剰発現させ、線維芽細胞様への形態変化を検討した。全ての細胞種で外来性Eomesタンパクは核に局在し、転写制御タンパクとしての機能を発現しうると推測されたが線維芽細胞様への形態変化は観察されなかった。細胞形態を指標としたin vitro培養系でのアッセイでは大腸癌悪性化進展におけるEomesの関与を示すことはできなかった。現在、stable発現系を用いてin vivoでの悪性進展との関わりを検討するためにEomes安定発現細胞株を分離しつつある。 一方、成体では脳でしか発現していないとされているEomesが正常大腸組織でも発現していたことはきわめて興味深い発見であった。大腸は「第二の脳」とも呼ばれる器官であり、Eomesは癌の悪性化進展とは別に、大腸の神経系の構造や機能にも関わっているのかもしれない。in situ hybridizationによりEomes発現細胞を同定することにより、この点に関しても検討を加えつつある。
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