研究概要 |
8種類のヒト大腸癌細胞株において、中胚葉誘導制御遺伝子Eomes (Tbr-2)の発現と細胞形態や細胞機能との相関から、Eomesがヒト大腸癌における悪性進展に関わることを示唆する観察結果を得た。そこで、Eomesの全長cDNAをヒト大腸癌細胞株から分離し、Eomes発現(-)のヒト大腸癌細胞株(HT29,SW48,SW837)に強制過剰発現させ、上皮/間充織変換の誘導を形態的に検討した。全ての細胞株で外来性Eomesタンパクは核に局在し、転写制御タンパクとしての機能を発揮し得ると期待され、実際にHT29細胞において形態的な上皮/間充織変換の誘導を観察することができた。(前年度までの実験では上皮/間充織変換の誘導を観察できなかったが、今年度、実験方法を変えることによりポジティブデータを得ることができた。)また、移動浸潤能などの機能的アッセイを行うべく、3種類の細胞株でstable cloneの分離を2回以上試みたが分離することができなかった。中胚葉分化を制御するEomes以外の転写因子であるSlug,SnaHは癌の悪性化進展に関わることが既に報告されている。これらの発現を8種類のヒト大腸癌細胞株で調べたところ、SnaHはEomesの発現とは無関係に全ての細胞株において発現していた。SlugはEomes発現(+)細胞株5種類のうち4種類で発現していたのに対して、Eomes発現(-)細胞株では3種類のうち1種類でしか発現していなかった。正常胚発生過程においてEomesはこれらの転写因子よりも初期に発現を開始するので、Eomesがこれらの転写因子の上位で機能しているかどうかを検討した。Eomes発現(-)/Slug発現(-)細胞(HT29)においてEomesの強制発現によりSlugの発現が誘導されることがわかった。 これらの結果から、大腸癌細胞株において、EomesはSlugを介して悪性化進展に関与していることが明らかとなった。
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