乳癌ホルモン療法抵抗性獲得の機序解明とその克服に関する基礎的検討

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14571166
• 研究機関: 川崎医科大学
• 研究代表者: 紅林 淳一 川崎医科大学, 医学部, 助教授 (10248255)
• 研究分担者: 大槻 剛巳 川崎医科大学, 医学部, 助教授 (40160551)
• キーワード: 乳癌 / ホルモン療法抵抗性 / 低酸素環境 / ER / HER1 / HER1 シグナル伝達阻害剤 / 低酸素選択的細胞毒 / 抗エストロゲン剤

研究概要

乳癌のホルモン療法抵抗性獲得のメカニズムに関しては、世界中で広く研究が行われ、多くの作業仮説が存在するが、共通の原因はみつかっていない(今回、総説にまとめた)。さらに、抵抗性克服を目指した基礎研究は少ない。研究代表者らは、「低酸素微小環境などのepigenetic因子が血管新生因子発現や増殖因子シグナル伝達を亢進させ乳癌のホルモン依存性を消失させる」との作業仮説を立て、実験的検証を行っている。本年度は、1.再発乳癌症例の乳癌組織標本を対象に、HER1、HER2増殖因子受容体発現、P53変異、Ki-67標識率を系統的に検討し、ホルモン療法の治療効果との相関を解析した。その結果、HER1発現の亢進している乳癌症例では、早期にホルモン療法抵抗性を獲得し、予後が悪いことが判明した。2.HER1シグナル伝達阻害剤ZD1839が、ホルモン依存性乳癌細胞3株(KPL-1,KPL-3C, T47D)において抗エストロゲン剤ICI182,780の増殖抑制効果を増強することを示した。そのメカニズムとして、P21を介したG1-S blockade及びBcl-2を介したapoptosis促進が関連していることが判明した。3.低酸素選択的細胞毒tirapazamine, TX-402が、ヒト乳癌ヌードマウス移植モデルにおいて、エストロゲン受容体(ER)の発現低下を阻止することが判明した。これらの研究結果は、HER1シグナル伝達阻害剤や低酸素選択的細胞毒が、乳癌のホルモン療法抵抗性獲得の遅延や克服に役立つことを示唆している。今後は、低酸素環境が増殖因子受容体発現に与える影響、HER1シグナル伝達阻害剤のin vivoにおけるホルモン療法抵抗性乳癌細胞増殖の抑制効果、低酸素選択的細胞毒によるホルモン療法剤の治療効果増強について検討したい。

研究成果

• [文献書誌] Kurebayashi J: "Endocrine-resistant breast cancer : underlying mechanisms and strategies for overcoming resistance"Breast Cancer. (in Press). (2003)
• [文献書誌] 紅林淳一: "乳癌の内分泌療法抵抗性克服を目指した研究:Hypoxic cytotoxinsを用いた実験"乳癌基礎研究. 12(in Press). (2003)
• [文献書誌] Kurebayashi J: "The epidermal growth factor receptor tyrosine kinase inhibitor ZD1839 ('Iressa') enhances the antitumor effect of the antiestrogen ICI 182,780('Faslodex') in estrogen-receptor-positive breast cancer cells"Breast Cancer Research and Treatment. 76(Suppl 1). S71 (2002)
• [文献書誌] 紅林淳一: "乳癌におけるhypoxia-inducible factor(HIF)-1αの発現"乳癌基礎研究. 11. 11-14 (2002)
• [文献書誌] 紅林淳一: "乳癌のホルモン療法"外科治療. 86(4). 451-452 (2002)
• [文献書誌] 紅林淳一: "癌の抗体療法.腫瘍増殖因子を標的とした抗体療法.HER2."Surgery Frontier. 9(3). 45-49 (2002)
• [文献書誌] 紅林淳一: "乳がんに対する内分泌療法の考え方-耐性獲得のメカニズムと対策-"血液・腫瘍科. 45(3). 201-206 (2002)
• [文献書誌] Fuiji T: "Effects of hypoxia on human seminoma"International Journal of Oncology. 20(5). 955-962 (2002)
• [文献書誌] Tanaka K: "Expression of vascular endothelial growth factor family messenger RNA in diseased thyroid tissues"Surgery Today. 32. 761-768 (2002)
• [文献書誌] Yata K: "Expression of angiogenic factors including VEGFs and the effects of hypoxia and thalidomide on human myeloma cells"International Journal of Oncology. 22(1). 165-173 (2003)
• [文献書誌] 紅林淳一: "乳癌のホルモン依存性の分子機構.先端医療シリーズ21:「乳癌の最新医療」"先端医療技術研究所(in Press). (2003)